大阪市が4つに分かれたら、薬局はどうなるのか
—— 2026年8月の区割り案・事務分担案を、薬局1,813店のデータで読む
※これは特定の制度改革(いわゆる「都構想」)の是非を論じる記事ではありません。賛成も反対もしません。公開された協議会資料と当社の薬局データから、「4つに分かれたら、薬局と、薬局に来る人はどうなるか」を調べた記録です。事務分担はまだ議論中で確定していません。断定ではなく、条件付きの見通しとしてお読みください。
調べて分かったこと
区割りの議論は、いつも「何区にするか」で語られます。私たちは薬局のデータを持っているので、別の問いを立てました——大阪市が4つの特別区に分かれたら、薬局はどうなるのか。
先に3つ書きます。
- 事務分担を議論した35ページの資料に、「薬局」という語は一度も出てきません。「病院の開設許可」「診療所等の開設許可」は項目として並んでいますが、薬局はありません。
- 薬局の許認可の行き先は、前回案と今回案で正反対です。 2020年の協定書では保健所を各特別区に置く設計(=区長に降りる)でしたが、2026年8月の仕分け案では保健所は「広域」=大阪府。上に上がる向きです。
- 4つの区は、同じ薬局網を持って出発しません。 75歳以上1,000人あたりの薬局数は3.14店〜5.02店(1.60倍)。いちばん薄いのは、人口最大の第4区ではなく第1区でした。
① 制度:薬局の許認可は、どこへ行くのか
まず制度の話です。薬局にとっていちばん直接的に効くのは、誰が許可を出し、誰が立入検査に来るのかです。
薬機法第4条は、薬局開設の許可を出すのは所在地の都道府県知事、ただし「保健所を設置する市又は特別区の区域にある場合においては、市長又は区長」と定めています。大阪市は保健所設置市なので、いまは大阪市長の許可です(保健所は市域に1か所)。
つまり薬局の許認可は、保健所がどこに置かれるかで決まります。 そして2026年7月31日の第4回協議会に出された事務分担の議論用資料には、こう書かれていました。
| 事務 | 東京都 ベース | 4区案 | 8区案 | 24区案 | 備考(資料より) |
|---|---|---|---|---|---|
| 保健所 | 基礎 | 広域 | 広域 | 広域 | 現在は市域に1か所。前回協定書では基礎(=各特別区に設置)。地域保健法第5条は保健所の設置主体に「特別区」を明記 |
| 診療所等の開設許可 | 基礎 | 基礎 | 広域 | 広域 | 中核市権限。「保健所とセットで仕分けが必要」 |
| 病院の開設許可 | 広域 | 広域 | 広域 | 広域 | 政令市権限。前回協定書では基礎 |
| 介護保険事業 | 基礎 | 広域 | 広域 | 広域 | 前回協定書では基礎。介護保険法第3条は保険者を「市町村及び特別区」と規定 |
| 国保・介護システムの管理 | 基礎 | 広域 | 広域 | 広域 | 前回協定書では一部事務組合 |
※出典:第4回 副首都・大阪にふさわしい大都市制度協議会「【資料1】広域と基礎の事務分担について(議論用資料)」(2026年7月31日)。「広域」=大阪府が担う案、「基礎」=特別区が担う案。これは議論用の仕分け案であり、決定事項ではありません。
ここから読み取れることが4つあります。
- 保健所は「広域」=府へ、という案です。 4区案・8区案・24区案のいずれでも同じ。前回協定書は「基礎」=各特別区に保健所を置く設計でしたから、方向が逆になっています。 このまま行けば、薬局の許可・薬事監視の相手は大阪市長から大阪府知事に変わることになります。
- ただし、ここには法律との整合という論点が残ります。 地域保健法第5条第1項は、保健所を設置する主体として「都道府県、(略)指定都市、(略)中核市その他の政令で定める市又は特別区」を挙げています。東京では昭和50年の地方自治法改正で特別区が保健所設置市の事務を処理することとされ、23区はいずれも区が保健所を設置しています。仕分け案はこれと逆に、保健所を特別区ではなく府に置く案です。介護保険と同じ構造の論点——制度の整合をどう取るのか、法改正が要るのか——が、保健所についても立つはずです。ただし資料が「法改正の必要性」を課題に挙げているのは、いまのところ介護保険についてだけです。
- ところが「診療所等の開設許可」は、4区案だけ「基礎」=特別区です。(8区案・24区案では広域)。資料自身が「保健所とセットで仕分けが必要」と注記しています。4区案が通ると、薬局を監督するのは府、門前の診療所を監督するのは特別区という分離が起こりえます。
- 介護保険事業も「広域」の案です。 在宅の居宅療養管理指導は介護保険のサービスなので、これは在宅に踏み込んでいる薬局に直接効きます。ただし資料自身が「法改正の必要性」を課題に挙げています——介護保険法第3条は保険者を「市町村及び特別区」と定めているためです。
そして繰り返しになりますが、この35ページに「薬局」は一度も登場しません。 批判として書いているのではありません。事務分担はいま議論の最中で、薬局の扱いはまだ空白のまま——それが2026年8月時点の事実です。
② 需要側:4区が抱える高齢者は、揃っていない
次に、薬局に来る人の側を見ます。8月7日に提出された4区案は、2020年案から港区・住吉区・東成区の3区だけを動かしたものです。その3区を動かした結果、各区が抱える75歳以上人口はこうなりました。
2020年案は、この物差しではよく揃っていました。開きは1.24倍。上位3区は11.0万・11.1万・11.2万でほぼ同じです。2026年案では第4区だけが15.2万人——最少の第1区の1.97倍。2050年推計でも1.33倍→1.87倍と、開いたままです。
内訳は単純です。第4区に入った東成区と住吉区が抱える75歳以上は合わせて40,480人。111,323人 + 40,480人 = 151,803人。 元から4グループでいちばん高齢化していたまとまりに、それが丸ごと乗りました。
※参考:資料が掲げる物差し(人口・純付加価値額)でも、総人口の格差は1.32倍→1.67倍、一人当たり純付加価値額は6.07倍→7.20倍と開いています。縮んだのは純付加価値額の総額(7.11倍→5.57倍)だけでした。なお純付加価値額は事業所の所在地ベースの指標で住民の担税力とは別物であり、特別区の財源は財政調整で配分されるため、倍率がそのまま歳入差になるわけではありません。
③ 供給側:4区は、同じ薬局網を持って出発しない
ここからが本題です。大阪市内の保険薬局1,813店を4区に割り付けました。割るのは人口ではなく75歳以上人口です。薬を実際に多く使うのは、そちらだからです。
| 特別区 | 含まれる行政区 | 薬局 | 75歳以上 2025 | 薬局 /千人(75歳以上) | 在宅対応 店数/率 | 在宅対応薬局 /千人(75歳以上) | 個店率 | 廃止届 → 消えた店 直近12か月・率は出さない※ |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 第1区新大阪 | 東淀川・淀川・西淀川・此花 | 242 | 77,129 | 3.14 | 153(63.2%) | 1.98 | 57.4% | 19 → 4 |
| 第2区梅田 | 旭・都島・鶴見・城東・北・福島 | 454 | 98,180 | 4.62 | 250(55.1%) | 2.55 | 59.3% | 30 → 9 |
| 第3区難波 | 中央・西・港・浪速・大正・西成・住之江 | 492 | 97,997 | 5.02 | 253(51.4%) | 2.58 | 61.6% | 33 → 11 |
| 第4区天王寺 | 東成・天王寺・生野・阿倍野・東住吉・住吉・平野 | 625 | 151,803 | 4.12 | 361(57.8%) | 2.38 | 63.8% | 41 → 9 |
※「消えた店」は区あたり4〜11店で、率を出して区どうしを比べられる数ではありません(⑤で理由を書きます)。生の件数だけ載せています。行政区名はリンクです——その区の薬局の分布・閉局・高齢化を1ページにまとめています。
いちばん薄いのは、人口最大の第4区ではありませんでした。 第1区(新大阪・淀川・西淀川・此花)です。
- 第1区の薬局は75歳以上1,000人あたり3.14店。第3区(5.02店)の63%しかありません。
- 第4区は絶対数では625店で最多ですが、密度は4.12店で真ん中です。
- ただし「薄い区ほど速く減っている」という関係は見えません。 廃止届の率は区ごとに6.56〜7.85%(市全体6.8%)で、いちばん高いのは第1区ですが、順位として読めるほどの幅ではありません。そもそも廃止届の多さは店の入れ替わりの多さであって、消えた店の数ではありません。この分け方は⑤で扱います。
つまり第1区の薄さは、いま薬局が失われて起きているものではなく、もともと薄かったということです。区割りは、この差を引き継いで始まります。
④ 在宅で見ると、4区はむしろ揃っている
ただ、薬局を数えるだけでは足りません。高齢化が進んで本当に要るのは、在宅に出られる薬局です。そこで在宅患者訪問薬剤管理指導の届出がある薬局に絞って、同じように75歳以上人口で割りました。ここからが、公開統計では出てこない部分です。
ここで数字が逆転します。
- 店数がいちばん薄い第1区は、在宅対応率がいちばん高い(63.2%)。 242店のうち153店が在宅の届出を出しています。
- 店数がいちばん厚い第3区は、在宅対応率がいちばん低い(51.4%)。 中央区・西区・浪速区のような都心部は、駅前型・門前型の薬局が多く、在宅に向いた構えの店の比率が下がります。
- 結果、在宅対応薬局の密度で見ると開きは1.60倍 → 1.30倍まで縮みます。
これは4区案にとって有利なファクトです。区を大きく束ねること自体にも効果があります——いまの24行政区では、在宅対応薬局の密度は旭区1.70店〜中央区5.13店と3.01倍ばらついています。4つに束ねると1.30倍。「スケールメリット」という資料の主張は、この部分では確かに成り立ちます。
店の数を数えるだけだと、第1区は「薬局が足りない区」に見えます。在宅を担える店で数え直すと、その差は半分近くまで縮む。 どちらが正しいかではなく、区に何を担わせるかで見るべき物差しが変わるということです。
※ただし「届出がある」ことと「実際に在宅に出ている」ことは別です。届出は体制の証明であって、訪問実績そのものではありません。
⑤ すでに起きていること:廃止届123件のうち、消えたのは33店
次に、いま起きていることです。ここは数え方を分けないと意味を取り違えます。私たち自身、最初は取り違えていました。
大阪市内で直近12か月に出された保険薬局の廃止届は123件。ただしこのうち90件(73%)は承継・移転で事業が続いています——廃止の記録に新しい機関コード(=引き継いだ先のコード)が書かれているもので、その場所から薬局が消えたわけではありません。そのまま消えたのは33店(市内1,813店の1.82%)でした。
廃止届の件数だけを見ると、地域の薬局が実際の4倍近い速さで失われているように見えてしまいます。
では区別ではどうか。ここは正直に「言えない」と書きます。
- 廃止届の率は市全体で6.8%、区ごとに6.56〜7.85%。いちばん高い値は第1区ですが、順位として読めるほどの幅ではありません。そして廃止届の多さは店の入れ替わりの多さであって、消えた数ではありません。
- そのまま消えた店は、区あたり4〜11店しかありません。 この数で率を出して区を並べると、1店の増減で順位が変わります——たとえば第1区が1店少なければ(3店)1.24%となり、いまいちばん低い第4区(1.44%)を下回ります。
- だから「どの区がいちばん消えているか」のランキングは出しません。 4店と11店の差から順位を語ると、翌年にはただの入れ替わりで逆転します。
言えるのは市全体の水準です——1年で1.82%が消え、廃止届の7割強は次の担い手に引き継がれている。 そして薬局は閉じるだけでなく開きます。2025年の大阪市では新規指定が廃止を上回っていました。店数が減り続けると決まっているわけではありません。
※この「廃止届と真の閉局を分ける」数え方は、大阪府全体のレポートと同じ定義です。ただし府ページに表示している実数は前の版のもので、本稿(現在の版)の集計とは数件ずれます——閉局データは版を上げるまで公開値を動かさない作りにしているためです。同じ記事の中で版を混ぜないよう、ここでは市内の数字だけを使っています。
⑥ 予測:店数が変わらなければ、2050年にどうなるか
最後が「予測」です。前提はひとつだけ——薬局の数が今のままだったら。需要(75歳以上人口)だけが社人研の推計どおりに動く、と置きます。⑤で見たように店数は減り続けているわけではないので、この前提はそれほど乱暴ではありません(ただしその確認に使った新規指定の数は指定年ベースで多めに出るため、向きの確認だけに使っています)。
4区すべてで密度は下がります。下げ幅は第2区 −21.1%、第1区 −15.0%、第4区 −10.4%、第3区 −4.8%。区どうしの開きは1.60倍 → 1.79倍と広がります。
逆算すると、2025年の密度を2050年に保つのに必要な店数はこうなります。
| 特別区 | 現在 | 2050年に必要 | 差 |
|---|---|---|---|
| 第1区新大阪 | 242店 | 284店 | +42店(+17.4%) |
| 第2区梅田 | 454店 | 576店 | +122店(+26.9%) |
| 第3区難波 | 492店 | 517店 | +25店(+5.1%) |
| 第4区天王寺 | 625店 | 697店 | +72店(+11.5%) |
| 合計 | 1,813店 | 2,074店 | +261店(+14.4%) |
大阪市全体で+261店。いちばん重いのは、意外にも第4区ではなく第2区(+122店・+26.9%)でした。北区・都島区・城東区などは、いま75歳以上の割合が4区でいちばん低い(13.8%)代わりに、2050年までに75歳以上が+26.9%増える——増加スピードが4区で最速だからです。
※必要店数の増加率(+26.9%)と75歳以上人口の増加率(+26.9%)が同じ数字なのは、定義上そうなるからです(必要店数=現在の店数×人口の伸び)。この表は発見ではなく、人口の伸びを「店」という現場の単位に翻訳したもの。翻訳する意味は、+26.9%が122店という具体的な量になることにあります。
つまり「いま高齢化が進んでいる区」と「これから急に高齢化する区」は別です。第4区はすでに重く、第2区はこれから重くなる。 区割りを2050年まで使う制度として設計するなら、見るべきは水準ではなく変化率のほうです。
予測というより、何が起きたら足りなくなるかの目安として読んでいただくのが正確です。
正直な限界(隠さず)
- 事務分担は確定していません。 ①の表は2026年7月31日時点の議論用の仕分け案です。今後の協議で変わります。「薬局の許認可が府に移る」と決まったわけではありません。
- 薬局の扱いは資料に書かれていないため、①の読み取りは制度の建て方からの推論です。 薬機法第4条(許可権者)・地域保健法第5条(保健所の設置主体)と資料の仕分け案を突き合わせた読みであって、当局の見解ではありません。保健所を府に置く整理が法律上どう成り立つのか(あるいは法改正を要するのか)は、今後の協議で示されるべき論点です。
- 75歳以上人口は需要の代理指標です。 実際の処方需要は所得・世帯構成(独居かどうか)・疾病構造にも左右されます。
- ⑥は予測ではなく条件付きの試算です。 「薬局数が2026年8月の水準で固定される」という前提を置いています。実際には開局・廃止・移転が続きます。また必要店数の増加率は、定義上75歳以上人口の増加率と同じ数字になります(人口の伸びを「店」という単位に翻訳したもので、新しい発見ではありません)。
- 薬局数・機能の届出は当社DB(近畿厚生局 保険薬局指定一覧/医療機能情報提供制度GMIS。2026年8月時点)。届出情報には反映の時差があります。廃止は同一覧の廃止情報で、大阪府については直近12か月の窓で集計しています(それ以前は名簿の欠落があり遡れません)。「消えた薬局」は、廃止届のうち新しい機関コードの記載が無いもの=移転・承継されなかったものに限っています。廃止届の件数そのものは、この記事で「閉局」とは呼びません。
- ⑤の「新規指定が廃止を上回っていた」は指定年月日ベースの数え方です。 移転や開設者変更でも指定日が新しくなるため、この数字は純粋な新規開業より多めに出ます。「店数は減る一方ではない」という向きの確認までにとどめ、増減幅の根拠には使っていません。
- ⑤の区別の閉局は、区あたり4〜11店しかありません。 1店の増減で区の順位が変わる規模なので、区別のランキングは載せていません(社内では念のため区どうしの差を検定にもかけていますが、これは標本ではなく12か月に起きたことの全数なので、記事には有意差の議論を持ち込んでいません)。当社は「対象が3軒未満なら個店の数字になるので出さない」という基準を持っており、ここも同じ考え方です。
- 2050年推計は社人研 令和5年推計の中位仮定です。
- 私たちは特定の制度改革に賛成も反対もしません。 4区案・8区案・24区案のどれが良いとも言いません。
結論:区割りの議論に、薬局の席はまだない
今回いちばん驚いたのは、格差の数字ではありませんでした。35ページの事務分担資料に、「薬局」という語が一度も出てこないことです。病院も診療所も項目として並んでいるのに、薬局はありません。
薬局は、高齢者が最後まで通う場所です。在宅に出て、家で薬を管理し、飲めているかを確かめる。区が介護保険と地域包括ケアを担うなら、薬局はその設計に入っていなければおかしい。
でも、まだ入っていない。それは批判ではなく、まだ間に合うという意味でもあります。 事務分担の議論はこれからです。
私たちにできるのは、データで「4つの区がそれぞれ何を持って出発するのか」を先に見せておくこと——第1区は薬局が薄く、第4区は高齢者が重く、第2区はこれから急に増える。その事実を議論のテーブルに置くところまでです。その先を、読んでくださっているみなさんと、これからも一緒に考えていきたいと思っています。
次に読むなら
同じ大阪市でも、区によってこんなに違う
この記事は4つのまとまりの話でした。いまの24区それぞれで、薬局の密度・高齢化・処方せんの見通しがどう違うかは、こちらにまとめてあります。地図の区をクリックすると、その区の詳細ページへ進めます。
データ出典:副首都・大阪にふさわしい大都市制度協議会 第5回 委員提出資料「特別区区割り(4区案)」(大阪維新の会、2026年8月7日)/同 第4回「【資料1】広域と基礎の事務分担について(議論用資料)」(2026年7月31日)/国立社会保障・人口問題研究所「日本の地域別将来推計人口(令和5年推計)」/近畿厚生局 保険薬局・保険医療機関指定一覧/医療機能情報提供制度(GMIS)/医薬品医療機器等法第4条/地域保健法第5条・介護保険法第3条(e-Gov 法令検索)。分析:CrossHealth。本記事は公開データのみを用い、個人情報は含みません。特定の政策の是非を主張するものではありません。