生物多様性の喪失が脅かす抗菌薬開発:AMR創薬における自然資源の重要性を日本医療政策機構が報告
日本医療政策機構は、2026年11月4日に調査報告「AMR Policy Update #10:AMR時代における生物多様性と創薬」を公表しました。
この報告書は、薬剤耐性菌(AMR)対策における生物多様性の重要性を、創薬の視点から分析したものです。
医療現場で利用される医薬品の多くが自然由来である一方、生態系の破壊に伴い、新たな抗菌薬の候補となる化合物が失われつつあります。
本レポートでは、環境保全を医療政策および創薬基盤の維持という観点から再評価する必要性が提示されています。
自然界に由来する資源は創薬に不可欠であるが、その多様性は急速に失われている。
(AMR時代における生物多様性と創薬)
主要な論点として、まず創薬基盤としての生物多様性と種絶滅による深刻なリスクが挙げられます。
現在使用されている世界の医薬品のうち、50%以上が天然由来の物質やその構造をもとに開発されています。
1981年1月から2019年9月までに承認された感染症治療薬においても、25%を超える製品が天然由来物質そのもの、あるいはそれらを基礎として開発されたものです。
また、主要な抗菌薬の13のクラスのうち、9つのクラスが細菌や真菌などの微生物に由来しています。
しかしながら、現在の生物の絶滅速度は、人間活動の影響がない場合と比較して約1000倍に達していると推定されています。
生物の種が一つ絶滅するたびに、未検証の有用な化合物も同時に失われていく危険性が指摘されています。
種が絶滅するたびに、医薬品としての有用性が未検証の化合物も失われる可能性がある。
(AMR時代における生物多様性と創薬)
次に、日本における自然資源を活用した創薬の歴史的実績と近年の開発動向についてです。
日本では戦後の1946年から1995年にかけて、国内の微生物や植物資源から117種類以上の抗生物質や生理活性物質が発見されました。
そのうち41種類は海外の企業へライセンスが供与され、国際的にも広く使用される実績を残しました。
1949年に日本で初めて発見された抗菌薬であるコリスチンや、1957年に発見されたカナマイシンなどが代表的な事例です。
さらに現代においても、2014年に沖縄の土壌サンプルから新薬候補のライソシンEが同定されました。
ライソシンEはメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)に対する効果が期待されており、日本の生態系が依然として有望な創薬資源であることが示されています。
1946年から1995年の間には、日本発の抗生物質・生理活性物質が117種類以上発見されたとされています。
(AMR時代における生物多様性と創薬)
そして三つ目の論点は、製薬業界における構造変化と持続可能な創薬支援の課題です。
1990年代以降、大手製薬企業の多くは合成化合物ライブラリーや遺伝子情報を活用した標的ベース創薬へ開発の軸足を移しました。
これに伴い天然物探索研究への投資は相対的に縮小し、創薬の担い手は製薬企業からアカデミアやベンチャー企業へと変化しました。
近年では人工知能(AI)やメタゲノム解析の技術進歩により、天然物研究がより低コストかつ迅速に行える環境が整いつつあります。
しかし、抗菌薬事業の採算性の低さから大手企業が研究開発から撤退している現状があります。
小規模な研究主体を支えるための公的な支援や、持続的な資金調達の枠組みが十分に整備されていない点が大きな課題となっています。
近年では、AIやメタゲノム解析などの新たな技術の進歩によって、天然物研究をより迅速かつ低コストで行えるようになりました。
(AMR時代における生物多様性と創薬)
今後の展望として、感染症に対する新たな治療手段を確保するためには、環境保護と創薬政策の連携が不可欠となります。
生物多様性の保全を環境問題として捉えるだけでなく、将来の医療を支える安全保障の観点からも位置づける必要があります。
持続可能なAMR創薬を実現するため、小規模事業者や研究機関を対象とした公的助成や資金調達スキームの具体化が注目されます。
日本の持つ豊かな自然環境と創薬技術を活かし、将来にわたり医薬品供給能力を維持するための継続的な議論が期待されています。
生物多様性をどのように守り、その探索を支える研究をどのように継続していくかは、AMR対策にとどまらず、日本の創薬力を将来にわたって維持するうえでも重要な論点です。
(AMR時代における生物多様性と創薬)
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