長期化する血液がん治療と生活の質:日本医療政策機構がカナダの事例から見る医療モデル転換の政策課題を公表
日本医療政策機構は、2026年10月19日に政策コラムNo.78を公開いたしました。
分子標的薬、二重特異性抗体、CAR-T細胞療法などの登場により、がん治療技術は飛躍的に進化を遂げています。
その結果、多くの血液がんは集中的な治療を要する急性疾患から、長期管理を要する慢性疾患へと変貌しました。
医療の命題は「治す医療」から患者と「ともに生きる医療」へと移行しています。
生存率の向上に伴い、患者は頻繁な外来通院や副作用への対応、再発への不安を抱えながら生活することになります。
そのため、生存指標だけでなく、療養を通じて高い生活の質(QOL)を保つ支援の構築が求められています。
治療技術の進歩により、血液がん患者の生存率は向上している。多くの血液がんは、集中的な治療を要する急性期の疾患から、長期にわたる管理が必要な慢性疾患へと変化しつつある。
(【HGPI 政策コラム】(No.78))
主要な論点・合意事項
- 患者が重視する項目と実際の医療提供における顕著なギャップ
慢性骨髄性白血病(CML)患者・家族の会「いずみの会」が実施した調査では、治療評価で「副作用がないこと」が非常に重視されていました。
しかし、実際の満足度との間には大きな隔たりが存在することが明確になりました。
さらに、55.4%の患者が最も求める情報として「自身の今後の見通し(予後)」を挙げました。
また、日本を含む11か国で実施されたCML SUN調査では、医師の多くが生存を成功と捉える一方、患者は倦怠感緩和や日常生活を送る力を求めていると判明しました。
治療方針を医師と共同で決めたと答えた患者は約25%にとどまり、医師の74%は自分が最終決定者であると認識していました。
5人に1人の患者は問われない限り副作用を伝えておらず、医師が十分耳を傾けてくれたと感じた患者は半数未満でした。
CML患者の未充足ニーズ調査(CML SUN: CML Survey on Unmet Needs)にも、同じ傾向が明確に表れています。同調査は、日本とカナダを含む11か国において実施された大規模な患者・医師調査であり、患者361名、医師198名が参加しました。CML患者が何を重視し、どのような生活実感を持っているかを調べたもので、医師の想定と患者の優先事項の間に大きな隔たりがあることを明らかにしました。
(【HGPI 政策コラム】(No.78))
- カナダにおけるコミュニケーションの構造化と多職種連携の実践
カナダの血液がん領域では、コミュニケーションが質の高いケアにおける必須の要素とみなされています。
実際の診療現場では、検査値のみならず日常の生活や就労、家族内での役割、治療上の負担が共有されています。
医師は早い段階で患者との関係を築き、患者本人が意思決定にどう関わりたいかを直接尋ねる姿勢が大切にされています。
診療時間内の対話を補う仕組みとして、診療看護師や薬剤師、フィジシャン・アシスタントによる多職種チームが患者の懸念を吸い上げています。
加えて、患者団体は副作用が生活に与える影響を医療者へ正しく伝えるエンパワーメント支援や保険適用議論への関与を行っています。
カナダCMLネットワークなどの患者団体が開催する年次大会では、医師が参加者として加わり診察室外での対話が実現しています。
カナダでは、CMLをはじめとする血液がんの領域で、コミュニケーションが質の高いケアの重要な要素として認識されるようになってきました。診療の場では、検査値だけでなく、日常生活や仕事、家族の中での役割、治療の負担についても話し合われるようになっています。
(【HGPI 政策コラム】(No.78))
- 日本における患者視点の可視化と多職種連携推進への検討課題
日本の血液がん医療は高度に専門化されていますが、患者視点を日常診療へ組み込む取り組みは限定的と指摘されています。
「いずみの会」の全国調査では、困難に直面した際に主治医以外の職種に相談したことがない患者が73%に達しました。
検査値や病状コントロールに主眼が置かれ、倦怠感や認知機能低下、復職支援といった課題へ目が向きにくい構造が存在します。
日本の課題は治療水準そのものではなく、慢性疾患化した血液がんとともに生きる患者をいかに長期支援するかです。
政策上の課題として、予後の見通しニーズに応えるQOL評価指標の導入と、プライマリケアやリハビリ、社会福祉との連携強化が挙げられます。
さらに、医師、患者、患者団体、政策立案者が一堂に集うオープンな対話の場を創出することが提言されています。
日本にとっての課題は、治療水準が不十分であることではなく、血液がんとともに生きる患者を長期にわたっていかに支えるかということです。患者報告に基づく視点を一貫して取り入れ、多職種連携を強化し、医師・患者・患者団体・政策立案者の間に対話の機会を設けることが求められます。
(【HGPI 政策コラム】(No.78))
結び
高度な技術と治療体制を誇る日本の血液がん医療において、患者のQOLを中心とした体制への見直しが提言されています。
今後は、患者報告アウトカム(PRO)の日常診療への反映や、主治医以外の多職種による支援体制の整備が焦点となります。
診察室を超えたステークホルダー間の対話を通じて、当事者の経験が政策形成へ反映されることが期待されています。
日本医療政策機構は、今後も血液疾患プロジェクトを通じて、患者のQOL向上に向けた政策対話を推し進めていく考えです。
日本医療政策機構は、今後も血液疾患プロジェクトを通じて、血液がんとともに生きる患者のQOL向上に向けた政策対話を推進し、この議論に貢献していきます。
(【HGPI 政策コラム】(No.78))
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