【Vol.10】再設計される国内の制度、離脱する米国の選択。(2026年1月31日号)

はじめに
こんにちは、医療政策ウォッチャー編集長の木内翔太です。
第10号のニュースレターをお届けします。
2026年1月最終週、医療・健康政策の世界は、大きな転換点を迎えています。
今週のニュースを俯瞰すると、「国内制度の根本的な再設計」 と 「国際保健体制の分断」 という、対照的な2つの潮流が鮮明に浮かび上がります。
日本では、保険給付の範囲見直し、医療従事者への経済的支援、オンライン診療の法制化、医療機関の透明性強化といった、制度の骨格を問い直す議論が本格化しています。一方、国際社会では、米国がWHOからの脱退を通告し、世界の保健協力体制に大きな亀裂が生じました。
今週は、「制度設計の哲学」「経済的支援の実務」「医療提供体制の構造改革」「国際保健の未来」という4つの視点から、2026年の生存戦略を考える4つのニュースを厳選しました。
1つ目は、「日本医療政策機構による持続可能な保健医療システムへの提言」。
給付範囲の再設計、高齢者の再定義、科学的根拠に基づく社会的合意形成という、3つの視点から医療制度の未来が提示されました。
2つ目は、「令和7年度の医療機関等賃上げ・物価高騰支援事業」。
病院から診療所、薬局、訪問看護ステーションまで、幅広い医療機関への支援が具体化され、現場の処遇改善と経営安定化が図られます。
3つ目は、「厚生労働省によるオンライン診療の法制化と医療提供体制の透明化」。
オンライン診療受診施設の創設、一般社団法人の非営利性徹底、精神医療の地域医療構想への統合など、医療提供体制の構造改革が進行します。
4つ目は、「WHOによる米国脱退通知への声明」。
国際保健協力の基盤が揺らぎ、パンデミック対策や感染症対応における国際連携の行方が問われています。
今週も、足元の経営から世界の潮流までを繋げて、サクッと解説します。
日本医療政策機構が提言:給付・負担・社会実装の3つの視点から描く、持続可能な医療の未来図
導入
日本医療政策機構は、日本の保健医療システムが将来にわたり持続可能であるための政策提言を発表しました。
医療技術の高度化や超高齢社会の進展に対応するため、「給付」「負担」「社会実装プロセス」という3つの視点から、社会全体の合意形成を促す方向性が示されています。
事実
提言では、医療技術の高度化と超高齢社会の進展により、限られた財源のなかで給付を維持し続けることは現実的ではないと指摘されています。
「給付」「負担」「社会実装プロセス」の3つは互いに密接に関わっており、いずれか一つだけを選んでいては本質的な前進は望めないとされています。
保険給付の範囲を再設計し、患者の健康状態をほとんど改善しない「低価値医療」を保険給付から除外することが提案されました。
年齢のみを基準とするのではなく、健康状態や就業・社会参加の実態に合わせて高齢者を相対的に再定義し、所得だけでなく資産も考慮に入れた応能負担の実現が求められています。
科学的根拠に基づいた政策立案(EBPM)と、若年層や現役世代も参画する国民的な対話の場の設置が重視されています。
3行要約
保険給付の範囲再設計と「低価値医療」の除外
限られた財源のなかで基本的な医療まで圧迫されかねない局面を迎えており、公的に保障すべき保健医療の範囲と資源配分のあり方を見直す必要があります。
患者の健康状態をほとんど改善しない「低価値医療」を保険給付から除外し、真に必要な医療に資源を集中させることが求められます。
今後、保険適用される医療サービスや医薬品の範囲がより厳しく見直されることを意味し、医療機関や患者は提供される医療内容の変化に備える必要があります。
高齢者の「再定義」と資産を含めた公平な負担
健康寿命の延伸を踏まえ、年齢のみを基準とするのではなく、健康状態や就業・社会参加の実態に合わせて高齢者を相対的に再定義することが提案されました。
所得だけでなく資産も考慮に入れた、より公平な応能負担の実現が求められています。
高齢者の自己負担割合や保険料の算定基準が見直される可能性を示唆しており、特に資産を持つ高齢者層の医療費負担が増える可能性があります。
科学的根拠と国民的対話に基づくシステム継承
証拠に基づく政策立案(EBPM)は、持続可能な保健医療システムを設計し、社会的合意を得るための出発点です。
レセプト情報や健診情報などの健康・医療情報を個人で生涯にわたり統合的に分析できる情報基盤の強化が求められています。
国民的な対話の場を設け、若年層や現役世代の参画を促進することで、多様な世代の意見を反映させた政策決定の透明性を高めることができます。
地域現場への影響
[経営・収益]
低価値医療の保険給付除外により、医療機関は提供する医療サービスの質と効果を厳格に評価される時代に入ります。
診療報酬の算定基準が「提供した医療行為の量」から「患者の健康改善への貢献度」へシフトする可能性があり、アウトカム評価の重要性が増します。
高齢者の自己負担増加に伴い、患者の受診行動が変化し、予防・健康管理サービスへの需要が高まる可能性があります。
[連携・実務]
医療DXの加速により、レセプトや健診データの統合分析が進み、地域全体での健康管理と疾病予防の取り組みが強化されます。
医療機関、薬局、介護施設、保険者が連携し、患者の生涯にわたる健康情報を共有する体制の構築が求められます。
国民的対話の場への参画により、医療現場の実態と課題を政策決定に反映させる機会が増えます。
[チャンス]
「財政制約があるから給付を抑制する」という消極的な発想ではなく、「次世代に高品質な医療を継承するために今何を選択すべきか」という前向きな姿勢での議論が推奨されています。
医療機関は、真に患者の健康を改善する医療を提供することで、社会的信頼と経営の安定を両立できます。
地域の医療・介護・福祉が一体となり、住民の健康を支える新たなビジネスモデルの構築が期待されます。
引用
<政策提言>持続可能な保健医療システムへの道筋-社会的合意が期待される三つの視点- hgpi.org