【Vol.4】構造転換する日本の医療、可視化される世界の死因。(2025年12月20日号)

はじめに
こんにちは、医療政策ウォッチャー編集長の木内翔太です。 第4回目のニュースレターをお届けします。
今週は、「国の生存戦略(診療報酬改定)」「行政の効率化(生活保護)」「世界の新機軸(WHO)」という、現場の足元からグローバルまで、「連携と可視化」をキーワードに3つ+1つのニュースを厳選しました。
1つ目は、ハイライト「2026年度診療報酬改定の基本方針」。すでにお読みになってらっしゃる方も多いかもしれません。単なる賃上げの話ではありません。「単独での生き残り」が許されなくなり、地域全体でザイル(命綱)を結ぶ「チーム登山」への転換が始まります。
2つ目は、「生活保護対応のDX」。紙の医療券廃止とお薬手帳の原則義務化。これは、最もアナログだった領域にデジタルが入ることで、薬局・医療機関の「事務」と「連携」が劇的に変わる予兆です。
3つ目は、「WHOの自殺統計新指針」。見えにくかった「死因」を正確にデータ化する動き。地域医療におけるメンタルヘルスや、警察・行政との連携という新しい評価軸が見えてきます。
4つ目は、「AMR対策と抗菌薬供給の未来」。世界的な供給不安に対し、WHOが新たな手を打ちました。新薬創出や薬局の在庫管理にも関わる未来の話です。
今週もサクッと解説します。
「単独生存」の終わり
2026年改定が突きつける「地域完結型」への強制参加と、選別される医療機関
導入
2025年12月9日に厚生労働省の審議会で了承された「令和8年度(2026年度)診療報酬改定の基本方針」を、地域戦略の視点から読み解きます。
事実
令和7年(2025年)12月9日、社会保障審議会(医療保険部会・医療部会)にて、「令和8年度診療報酬改定の基本方針」がとりまとめられました。
議論の中心は、物価高騰・賃金上昇への「緊急対応」と、2040年を見据えた「治し、支える医療」への構造転換です。
3行要約
経済前提の転換
30年続いたコストカット型経済からの脱却を明記。賃上げと物価高に対応できない組織は、報酬上も人材確保上も脱落する構造へ。
地域完結の実装
「治す(病院)」と「支える(地域)」の役割分担。特に「口腔・栄養・リハビリ」が高齢者ケアの共通言語として認識される。
成果とDX
医療DX未対応は論外。単なる実施回数(ストラクチャー)ではなく、治療やケアの成果(アウトカム)が評価の軸になる。
地域現場への影響
[経営・収益]
人件費増を吸収できるのは「高機能・連携型」
全産業的な賃上げ圧力に対し、医療現場も処遇改善が必須となります。しかし、基本診療料の引き上げだけで賄えるとは限りません。
「対人業務の充実(薬局)」や「重症者対応(訪看)」など、報酬単価の高い高難度業務へシフトし、かつDXで事務コストを下げた組織が、利益を確保できる構造です。
[連携・実務]
薬剤師・看護師・介護職が「減薬」と「食事」で繋がる
ポリファーマシー(多剤併用)対策と残薬解消が推されています。
口腔・栄養管理も推されています。
実務では、薬剤師が医師に処方提案をして薬を減らし、その情報をケアマネや訪看が共有して「食事量がどう変化したか」をモニタリングする、といった「職種を跨いだ成果のリレー」が評価対象になる可能性があります。
[チャンス]
「地域の医薬品供給拠点」と「急変時バックアップ」
薬局は「地域の医薬品供給拠点」としての機能が求められます。在庫の共同管理や、夜間対応などを地域単位でシェアする仕組みを作れたグループが有利となる可能性があります。
また、在宅・施設側は「緊急時に入院を受け入れてくれる病院」との太いパイプ(後方支援機能)を持っていることが、利用者獲得の武器となります。
例えるなら
地域医療を一つの登山チームと見立てると、今回の動きは「『個人登山』から、『ザイル(命綱)をつないだチーム登山』への変更」のようなものです。
これまでは、各自が自分のペースで山(経営)を登れました。しかし、天候が悪化(物価高・高齢化)したため、国は「これからは全員ザイルで繋がれ」と要請しています。
病院(ガイド)、薬局(補給係)、介護(シェルパ)がロープで繋がっているため、誰か一人が足を滑らせる(入退院支援のミスや、情報の分断)と、チーム全員が上位の評価(加算)を達成できず、結果として地域全体が収益の柱を失う(=相対的な減算)というリスクを孕む可能性があるルールに変わったと言えるでしょう。